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ドケルバン病

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親指を動かすと、手首の親指側が痛む病気

 

ドケルバン病は、親指を動かしたときに、手首の親指側に痛みが生じる病気です。

 

物をつかむ、持ち上げる、瓶のふたを開ける。こうした日常の何気ない動作で痛みを感じることがあります。手首の親指側にある骨の出っ張り付近を押すと痛みがあり、腫れを伴う場合もあります。

 

一般には「腱鞘炎」と呼ばれていますが、この病気を理解するには、親指を動かす腱と、その腱が通るトンネルの仕組みを知ることが大切です。

 

親指を動かす腱には、狭い通り道がある

 

腱とは、筋肉の力を骨に伝える丈夫なひものような組織です。筋肉が縮むと腱が引っ張られ、その力によって指が動きます。

 

手首の甲側には、腱が通る6つの区画があります。このうち親指側にある「第1区画」には、親指を広げる長母指外転筋腱(APL)と、親指を伸ばす短母指伸筋腱(EPB)が通っています。

 

この2種類の腱は、骨と丈夫な靱帯に囲まれた、長さ約2cmのトンネルの中を通ります。

 

トンネルの壁は硬く、簡単には広がりません。その中を腱が滑るように動くことで、親指の運動が可能になっています。

 

つまり、親指を滑らかに動かすためには、腱そのものだけでなく、その通り道にも十分な余裕が必要なのです。

 

トンネルの中で腱が動きにくくなる

 

ドケルバン病では、腱を包む組織が厚くなったり、腱の通り道が狭くなったりすることで、腱の滑らかな動きが妨げられます。

 

トンネルの壁は丈夫で伸びにくいため、内部にわずかな変化が生じただけでも、腱が通りにくくなることがあります。

 

その状態で親指を動かすと、腱と周囲の組織に負担が加わり、痛みが生じます。

 

このように、狭い場所で腱の動きが妨げられる状態を「絞扼(こうやく)」と呼びます。

 

ドケルバン病は一般に炎症を起こす病気として説明されますが、実際には腱鞘の肥厚や狭窄など、構造的な変化も重要です。​

​

単に炎症があるかどうかだけでなく、腱が滑らかに動ける状態にあるかどうか。

 

これが、ドケルバン病を理解するうえで大切なポイントです。

 

手の使いすぎだけが原因ではない

 

ドケルバン病は、1895年に外科医フリッツ・ドケルバンによって詳しく報告されました。

 

それ以前には「洗濯婦の捻挫」と呼ばれたこともあり、古くから手を繰り返し使う動作との関係が考えられてきました。

 

親指を広げながら手首を小指側に曲げたり、手首を反らしたりすると、腱がトンネルの部分で曲がり、負担が加わることがあります。

 

こうした動作の繰り返しが、症状に関係する可能性はあります。

 

しかし、手をよく使う人が必ず発症するわけではありません。反対に、特別な作業をしていなくても発症することがあります。

 

その理由を考えるうえで重要なのが、腱やトンネルの構造には個人差があるということです。

 

例えば、2種類の腱が同じトンネルを通っている場合もあれば、内部に仕切りがあり、それぞれ別の通り道を通っている場合もあります。腱の本数や走り方にも違いがあります。

 

こうした構造の違いによって、腱の動きやすさや、負担のかかり方が変わる可能性があります。

 

ドケルバン病は、単に「手を使いすぎたから起こる病気」と決めつけられるものではありません。

 

どのような症状が現れるのか

 

最も特徴的なのは、手首の親指側に生じる痛みです。

 

特に、親指を動かしたり、物を握ったり、持ち上げたりしたときに痛みが強くなることがあります。

 

痛みが生じやすいのは、手首の親指側にある骨の出っ張り付近から、少し肘に近い場所です。この部分を押すと痛みがあり、ときには腫れがみられます。

 

症状は数週間から数か月にわたって続くこともあります。

 

また、親指を動かしたときに、引っかかるような感覚が生じる場合もあります。

これは、腱が狭い通り道を滑らかに通過できなくなることと関係している可能性があります。

 

ただし、親指の引っかかりは、ばね指など別の病気でも起こります。どこで、どのような仕組みによって引っかかっているのかを確認する必要があります。

 

ドケルバン病の診断

 

診断では、痛みが生じている場所と、どのような動作で痛みが強くなるのかを確認します。

 

手首の親指側に圧痛があり、親指の運動によって痛みが誘発されることは、ドケルバン病を疑う重要な手がかりになります。

 

診察では、親指を手のひらに握り込んで手首を小指側に曲げるなど、腱に負荷をかける検査を行うことがあります。

 

ただし、こうした検査で痛みが生じたからといって、それだけでドケルバン病と確定できるわけではありません。

 

実際に痛む場所を触って確認し、腱の動きや周囲の組織の状態を調べることが大切です。

 

超音波検査(エコー)では、腱や腱鞘の状態を観察できるほか、トンネル内部の仕切りなどの解剖学的な違いを確認できる場合もあります。

 

また、必要に応じてレントゲン検査を行い、骨や関節の異常がないかを調べます。

 

似た症状を起こす病気との違い

 

手首の親指側が痛む病気は、ドケルバン病だけではありません。

 

周囲には多くの腱や関節が集まっているため、痛む場所が近くても、その原因が異なることがあります。

 

交叉性腱鞘炎

 

手首の甲側で、異なる腱が交差する部分に痛みが生じる病気です。

ドケルバン病よりも肘に近い場所に痛みや腫れが生じることが多く、手首を動かしたときに、こすれるような感触や音を伴う場合があります。

 

母指CM関節症

 

親指の付け根にある関節の変形性関節症です。

物をつまむ、瓶のふたを開けるといった動作で痛みが生じることがあります。ドケルバン病と痛みの場所が近く、症状も似ているため、区別が必要です。

 

STT関節症

 

手首の奥にある、舟状骨・大菱形骨・小菱形骨という3つの骨の間に生じる関節症です。

この関節に変形が生じると、手首の親指側に痛みが出ることがあります。

 

そのほかの骨や関節の病気

 

舟状骨の骨折や、手首の関節そのものに生じる変形性関節症なども、似た症状を起こします。

これらを見分けるためには、痛みのある場所や動作との関係を詳しく調べ、必要に応じてレントゲンや超音波検査を組み合わせます。

 

また、これらの病気は一つだけとは限りません。

 

例えば、ドケルバン病と母指CM関節症が同時に存在することもあります。

一つの病名に当てはめるだけでは、痛みの原因を十分に説明できない場合もあるのです。

 

大切なのは、痛みが生じる場所と仕組みを見極めること

 

ドケルバン病では、親指を動かす腱が、狭いトンネルの中で滑らかに動きにくくなることが、痛みの発生に深く関係しています。

しかし、同じドケルバン病でも、腱の本数やトンネルの内部構造は必ずしも同じではありません。

 

さらに、手首の親指側に痛みがあっても、その原因が腱ではなく、関節や骨にあることもあります。

そのため、痛む場所を確認するだけでなく、どの組織に、どのような変化が起こっているのかを見極めることが重要です。

 

病名をつけることは診断の一部です。その痛みが、どのような仕組みで生じているのかを理解することが、より適切な判断につながります。

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