

手術後も手が握れない――癒着と拘縮に向き合い、グリップを取り戻した一例
まず初めに、明確にしておきたいことがあります。 今回の記事は、他院のドクターが行った手術の適応判断や手技について、 批判することを目的としたものではありません。 手術には、その時々の担当医の判断があります。 その点をご理解いただいたうえで、お読みください。 さて、ある手術を、とある病院で受けた患者さんが、 長期間にわたってリハビリを続けていたものの、 手のグリップが十分に改善しないとのことで、 当院を受診されました。 診察したところ、手術の傷跡の周囲で、 伸筋腱や lateral band などの組織に癒着が生じ、 さらに複数の関節包にも拘縮が起きていることを 確認しました。 そこで当院は、患者さんとともに、 「最初に何を取り戻すのか」 という、一番大切な目標を設定しました。 その目標に向けて、 患者さんが毎日ご自身で行うこと 当院で行う手当て それぞれを、いつ、どのような順番で進めていくのかについて 一連の治療計画を立て、焦らず、淡々と実行していきました。 そして現在、最初に設定した目標はすでに達成しています。 初診時には難しかった手の動き(写

山田哲生
7月15日


きずは小さい方がいいと思う。
上の写真は、右中指ばね指に対して行った 世界最小切開のばね指手術後の写真です。 ※末節部には、ぼかしを入れています。 自分で言うのもなんですが、 正直、どこに傷があるのかわかりませんでした。 もちろん、これは手術だけの力ではありません。 患者さんが手術後、早い時期から主体的に手を使ってくださったおかげで、 とても良い経過につながったと思っています。 今は、心臓のバイパス手術などと同じように、 「大きく切ることが正義」という時代ではありません。 必要なことを、必要最小限の傷で行う。 僕は、ばね指手術においても “きずは最小限”が良いと考えています。 ※これは、僕がお師匠先生から授かったフィロソフィーを、 愚直に日々の臨床に活かしているだけです。 あらためて、深く感謝申し上げます。 ※手術後フォローアップの外来で写真を撮らせていただきました。 患者さんより掲載許可をいただいています。

山田哲生
6月18日


母指CM関節症と“頑張りすぎる手” — 6割の力で生きるという治療的視点
親指の付け根が痛い。 物をつまむと痛む。 瓶のふたを開けるときに痛みが走る。 雑巾をしぼる、包丁を使う、洗濯ばさみをつまむ、スマートフォンを操作する。 こうした日常の何気ない動作で、親指の付け根に痛みを感じる場合、母指CM関節症が関係していることがあります。 母指CM関節症は、親指の付け根にある関節に負担がかかり、痛みや変形、使いにくさが出てくる病気です。 一般的には「軟骨がすり減る病気」と説明されることが多いのですが、実際の痛みはそれだけで決まるものではありません。 関節の状態。 筋肉の硬さ。 手の使い方。 生活の忙しさ。 そして、その人がどれだけ無理を重ねてきたか。 そうしたものが、複雑に重なって症状として現れていることがあります。 親指の付け根が痛む人に共通していること 診療の中で母指CM関節症の患者さんを拝見していると、ひとつ感じることがあります。 それは、頑張り屋さんが多いということです。 もちろん、医学的に「頑張り屋さんだから母指CM関節症になる」と単純に言えるわけではありません。 ただ、家事、仕事、介護、趣味、細かな手作業などを、痛

山田哲生
5月19日


手首の小指側の痛みが、なかなか引かない方へ
手首の小指側が痛む。 物を持つと響く。 ドアノブを回す動きや、手をつく動作がつらい。 こうした痛みが長く続いている方のなかには、陳旧性TFCC損傷が関係していることがあります。 TFCCは、手首の小指側で関節を支える大切な組織です。 ただ、痛みが長引いている場合、単純に「傷があるから痛い」とは限りません。 傷んだ部分のまわりがこわばっていたり、動きが悪くなっていたり、 負担がかかり続けていたりして、痛みが抜けにくくなっていることがあります。 このような状態に対して、治療の選択肢となるのが、ハイドロリリースとバイオセラピーです。 ハイドロリリースは、痛みの周囲で動きが悪くなっている部分を丁寧に整え、 動かしたときのつらさや引っかかるような痛みの軽減を目指す治療です。 一方、バイオセラピーは、傷んだ部分が回復しやすい環境を整え、慢性的な痛みの改善を後押しする治療です。 大切なのは、TFCC損傷といわれた方すべてに、同じ治療が合うわけではないということです。同じように見える手首の痛みでも、実際には痛みの出方も、負担のかかり方も、人によって異なります。.

山田哲生
5月17日


諦める前に知ってほしい、術後の痛みに対する専門的アプローチ
「手術したのに、まだ痛む」「再発してどうしていいか分からない」「“もう手はありません”と言われた」 そういった声が、当院には日々届いています。一件や二件ではありません。もしかすると、あなたのその痛みも――。 🧠 神経が“潰れる”とは? 画像をご覧ください。黒く帯状に映っているのが「正中神経」です。 よく見ると、途中で細くなっている部分があります。これは周囲の異常に硬くなった組織が、神経を強く締め付けている状態です。 この原因が、「癒着」です。過去の手術、あるいは長年の使い痛みによる組織の傷跡・炎症が、神経や筋肉に貼りつき、動きと血流を妨げているのです。 💡 当院の治療アプローチ 当院では、個々の症例に応じた薬剤と技術を用いて、癒着した組織を**「切らずに剥がす」**処置を行います。 正中神経や筋膜、腱との癒着をていねいに解除 神経の表面(外膜)を圧迫している部分も、見逃さず処理 この技術には、正確な知識と高度な手技が必要です。“見えない場所”を扱うため、熟練した技術者でなければ危険を伴います。ちなみに私は2万件以上行っています。 📹 治療の

山田哲生
5月17日


へバーデン結節へのバイオセラピー 簡単な解説
もし指の第一関節が腫れ始めたら、どのように対処しますか?へバーデン結節の場合、これは単なる見た目の問題ではなく、痛みや不快感を伴う可能性があります。この記事では、へバーデン結節とその治療法の一つであるバイオセラピーについて、わかりやすく解説します。 へバーデン結節とは? へバーデン結節は、指の第一関節部分が次第にゴツゴツと変化する現象です。これは、庭に徐々に現れる小さな岩のようなもので、年齢を重ねるほどに出現しやすくなります。特に、手を過度に使用した結果として発生することがあります。 バイオセラピーとは? バイオセラピーは、簡単に言うと「自分の血液を使った治療法」です。血液から特別な成分を抽出し、痛みや不快感の原因となる部位に再注入することで、自己治癒力を促進します。これは、壊れた自転車のタイヤをパンク修理キットで修理することに似ていますが、修理されるのは自転車ではなく、あなた自身の体です。 へバーデン結節へのバイオセラピー へバーデン結節へのバイオセラピーは、「自己治癒力を促進する」方法がどのように機能するかが鍵です。想像してみてください。庭の

山田哲生
5月14日


へバーデン結節とDIP関節固定術についてー手外科医として、誠実にお伝えしたいこと
へバーデン結節の治療として「DIP関節固定術」はよく知られています。医学論文では「満足度が高い」と評価されることもありますが、その“満足度”は主に 痛みだけ を基準に判断されていることをご存知でしょうか。 手を“使うための自由度”という観点では、別の顔が見えてくることがあります。 1|論文の満足度は“痛み中心”であることが多い 研究の多くは、 痛みの軽減 変形の安定 X線上の固定性 といった項目を中心に評価します。 一方で、 細かい作業のしやすさ 他の指・手首の疲労 違和感の持続 術後数年で感じる後悔 こうした 生活の質(QOL)に関わる部分 は詳細に評価されていないことがあります。 2|DIP関節は“なくても困らない関節”ではありません DIP関節は指先の最後の関節ですが、日常の細かな動作の“最終微調整”を担っています。 スマホ操作 タイピング 物をつまむ ボタンを留める 楽器演奏 細かな家事動作 この関節が動かなくなると、「なんとなく使いにくい」という感覚が長く残ることがあります。 3|固定により、負担の場所が変わることがあります...

山田哲生
4月27日


時間に試されて残るもの― カラヴァッジョと一本の時計から思ったこと ―
最近、久しぶりに「おっ」と思う腕時計を見た。 新品で買われてから長い年月を経ているらしいのに、 妙に生き生きとしていた。 別に欲しいわけではない。 ただ、美しいものに触れたときの、あの静かな高揚感。 それだけで十分だった。 仕事のことばかり考えていると、 こういう感覚は少し鈍りますね(笑)。 時間が価値を作るのではない よく「長く残っているものは価値がある」と言います。 でも最近は逆に思います。 時間が価値を作るのではなく、 価値があるものだけが時間を生き延びる。 腕時計もそうです。 流行に合わせただけのものは消える。 しかし、本当に良い時計は修理され、受け継がれ、 持ち主の人生と一緒に歳を重ねていく。 それは単なる工業製品というより、 時間と共存する工芸品に近い存在だと思います。 カラヴァッジョという例外的な画家 この話をすると、必ず思い出す画家がいます。 カラヴァッジョです。 彼の絵は400年以上前のものですが、 古典というより、今でも妙に生々しい。 聖人を理想化せず、 暴力や死を隠さず、 人間の恐怖や欲望をそのまま描いた。 当時はかなり物議

山田哲生
2月19日


最小侵襲手術について|手外科治療
患者さんより 親指のばね指(腱鞘炎)に対して通常2cmほど皮膚切開を行いますが、 当院では 数mmの皮膚切開(※)で 行っています。 この方は、早期社会復帰が必要だったため3mmの切開で行いました。 術後制限はほとんどありません。 手はどんどん使ってもらい、数日で復帰しました。 ※最近は 1mm 切開を採用することが増えています。これもすべて特殊な刀、僕は愛刀ケルベロスと呼んでいますが、この特注の刃物のおかげです。 いろんな方々の創意工夫・日本の匠達の技術に支えられながら、そしてベンダーさんが実直に仕事してくださるおかげです。 たった一つの手術でも、多くの人々の支えあってこそですねぇ。 感謝申し上げます。

山田哲生
1月21日


母指CM関節症──本当の原因は「軟骨」ではなく「筋の張り」にあります〜内転筋の拘縮がつくる“わずかなズレ”と、その連鎖を断つハイドロリリース〜
母指CM関節症(親指の付け根の痛み)は、「軟骨がすり減って起こるもの」「年齢のせい」と説明されることが多いのですが、実は、それだけではありません。 本当の出発点は “筋の張り(特に母指内転筋の拘縮)” にあります。 これは海外の研究でも報告されており、 母指内転筋が硬くなってくると、第一中手骨がわずかに内側へ引き寄せられる ことが明らかになっています。 この “わずかなズレ(partial displacement)” が、痛みや不安定感、変形のはじまりです。 ◆ 1|どうして筋の張りで関節が痛くなるの? 筋が硬くなると、力のかかり方が変わります。本来まっすぐ受けるはずの力が、“横から押されるような状態”になります。 すると── 関節が不自然な方向に押される 関節面に偏ったストレスがかかる 動かすたびに痛みが出る 徐々に関節が変形しやすくなる これが CM関節症の本当のメカニズム です。 ◆ 2|“筋→骨→免疫” と連鎖して進行していく病気です 筋の張りで関節がズレると、その周りにある滑膜や細胞が“異常な刺激”を受け続けます。 すると、炎症を担当

山田哲生
2025年12月2日


指先の痛み「へバーデン結節」|手術しなくても改善できる切らない治療とバイオセラピー
指先の痛み、どうしていますか? へバーデン結節(DIP関節の変形性関節症)。指先が痛んだり、こぶのように膨らんだり…。 「湿布や薬で様子を見ましょう」と言われたけど、良くならない。そんな経験はありませんか? 湿布や薬は残念ながら効きません 湿布や飲み薬で痛みがゼロになることはありません。 一時的にラクになることはあっても、すぐ戻ってしまいます。 変形の進行や炎症そのものを止める力は、 残念ながらない のです。 手術=固定=動かない 「じゃあ手術しかないの?」と思う方もいるでしょう。 DIP関節の手術は関節固定が基本です。 痛みは取れる でも 動かなくなる 一度固定すると、曲げ伸ばしは二度とできません。 細かい作業や趣味に大きな制限が出ます。しかも感染や再手術のリスクもあります。 だから、 すぐ手術はおすすめできません 。 切らない治療という選択肢 ここで出てくるのが インターベンショナル・オーソペディクス(IO) 。 超音波で確認しながら、針一本で痛みの原因にアプローチします。 ハイドロリリース :癒着をはがす 薬のピンポイント注射 :体に優し

山田哲生
2025年11月30日


手首の小指側が痛むあなたへ|TFCC損傷の新しい治療法
手首の小指側がズキズキ痛む…その原因、TFCCかもしれません 「雑巾を絞るとズキッ」 「テニスのフォアで力が抜ける」 「ペットボトルのキャップをひねると痛い」 「フライパンを持つと痛い」 ――こんな症状が続いていませんか? 手首の小指側( 尺側 )には、 TFCCという、 手首を支える“クッション兼安定装置”があります。 ここを痛めると、グラつく感じや引っかかる痛み が続き、 日常生活やスポーツに大きな支障が出ます。 従来のTFCC治療の限界|安静だけでは治らない理由 一般的な整形外科では、以下のような治療が行われます。 シーネやサポーターで固定 湿布や痛み止め 当てずっぽの注射 これらで改善する人もいますが、 長引く人やスポーツ復帰を目指す人には十分とは言えません 。 当院は「安静で痛みをごまかす場所」ではありません。“もう一度使える手首”に戻すための治療を行います。 TFCC損傷の新しい考え方|痛い場所だけを攻めない TFCCの痛みだからといって、 痛い尺側だけに注射する ――それでは根本解決になりません。 ポイントは「動的安定性」の復活 尺

山田哲生
2025年11月24日


母指CM関節症】親指の付け根の痛み、“すり減ったから終わり”じゃない|注射+筋トレで再発予防も
こんなお悩みありませんか? 親指の付け根がズキズキする フタが開けづらい・つまむと痛い 病院で「年のせい」「手術しかない」と言われた でも、できれば手術は避けたい… 🔧 「痛みの原因は、軟骨だけじゃない?」 この関節、長年の使い方のクセで ✔️ 関節の袋(関節包)が硬くなる ✔️ 腱が滑りにくくなる ✔️ 支えてる筋肉がサボる ――こういうことが重なると痛みが長引くことがあります。 つまり、“すり減ったから終わり”ではないんです。 ちゃんと整えて、ちゃんと動かせば、良くなる余地がまだある ということ。 💉 うちは“必要なら注射”。でもそれで終わりじゃありません。 まずはエコーで関節周囲の状態をしっかり確認。 ✔ 滑膜や腱鞘がガチガチなら → 処置日にバッコーンと注射して整える ✔ 関節の動きが鈍いなら → その原因をピンポイントでゆるめる でも、ハイドロリリース注射だけではなく 一番大事なのは「そのあと、自分で整えていくこと」 なんです。 🧭 あなたに合った治療の形、選べます。 患者さんの「生活スタイル」や「治したい目的」によって、治療

山田哲生
2025年11月17日


「手仕事やスマホで悪化しやすい親指の痛み ― 早めの対処が大切です」
親指のつけ根がズキッと痛む、物をつまみにくい――そんな症状がある場合は、**「母指CM関節症」**の可能性があります。 母指CM関節は、親指と手首をつなぐ重要な関節です。年齢とともに軟骨がすり減り、炎症が起きることで痛みや腫れ、握力の低下が生じます。特にスマホ操作や瓶のフタ...

山田哲生
2025年10月6日


「親指の付け根がズキズキする…主婦・美容師・ゴルファーの体験談から学ぶ保存療法」
親指の付け根がズキズキして、フタが開けられない。病院で「年齢のせい」「手術しかない」と言われて、諦めかけていませんか? 実際には、 痛みの原因は軟骨だけではなく、関節包や腱、支える筋肉などのバランスの乱れ が関わっていることが多いです。今回は、当院で治療を受けて生活を取り戻...

山田哲生
2025年9月15日


ドケルバン病|親指の付け根〜手首の痛みは動かして治す時代へ【札幌 手外科】
「ビンのフタが開けにくい」「赤ちゃんを抱っこすると手首がズキン」「スマホを長く持つと痛い」――それ、**ドケルバン病(親指側の腱鞘炎)**かもしれません。 ドケルバン病とは?【親指側の腱鞘炎】 手首の親指側には、指や手首を動かすための“腱”が通る細いトンネル(腱鞘)がありま...

山田哲生
2025年8月6日


回復へのゆったりとした道:バイオセラピーのセッション中の方々、完了された方々へ
credit:Tetsuo Yamada バイオセラピーを選んでいただき、すでにいくつかのセッションを終えられた方、または全セッションを完了された方へ、心より感謝申し上げます。この療法を通じて自身の体の変化を経験される中で、多くの方が早期に顕著な改善を期待されることは十分に...

山田哲生
2024年4月10日