

ドクターの小噺― 腱鞘炎を「細胞の目線」から考えてみる ―
ここからは少しマニアックな小噺です。興味のある方だけ、お付き合いください。 ------------------------ 腱鞘炎を「炎症」ではなく「修復環境の乱れ」として考える 腱は、本来、周囲の組織の中を滑らかに滑走する組織です。 指を曲げたり伸ばしたりするたびに、腱には張力がかかり、腱鞘(pulley)との間には多少の摩擦や圧迫が生じています。 しかし、正常な状態ではそれ自体が悪いわけではありません。 むしろ腱細胞にとって適度なmechanical stressは、「自分は腱として働いている」という情報でもあり、collagenをはじめとするECM(細胞外マトリックス)を適切に維持・再構築するために必要な刺激です。 問題になるのは、何らかのきっかけによって、この正常な滑走が崩れたときです。 組織が腫れる。 腱や腱鞘が少し厚くなる。 組織同士の滑りが悪くなる。 局所的に圧迫される場所ができる。 すると、それまで「スルッ」と滑っていた腱が、同じ動作をしているにもかかわらず、「ギシッ」と擦れるようになります。 ...

山田哲生
17 時間前


手術後も手が握れない――癒着と拘縮に向き合い、グリップを取り戻した一例
まず初めに、明確にしておきたいことがあります。 今回の記事は、他院のドクターが行った手術の適応判断や手技について、 批判することを目的としたものではありません。 手術には、その時々の担当医の判断があります。 その点をご理解いただいたうえで、お読みください。 さて、ある手術を、とある病院で受けた患者さんが、 長期間にわたってリハビリを続けていたものの、 手のグリップが十分に改善しないとのことで、 当院を受診されました。 診察したところ、手術の傷跡の周囲で、 伸筋腱や lateral band などの組織に癒着が生じ、 さらに複数の関節包にも拘縮が起きていることを 確認しました。 そこで当院は、患者さんとともに、 「最初に何を取り戻すのか」 という、一番大切な目標を設定しました。 その目標に向けて、 患者さんが毎日ご自身で行うこと 当院で行う手当て それぞれを、いつ、どのような順番で進めていくのかについて 一連の治療計画を立て、焦らず、淡々と実行していきました。 そして現在、最初に設定した目標はすでに達成しています。 初診時には難しかった手の動き(写

山田哲生
7月15日


きずは小さい方がいいと思う。
上の写真は、右中指ばね指に対して行った 世界最小切開のばね指手術後の写真です。 ※末節部には、ぼかしを入れています。 自分で言うのもなんですが、 正直、どこに傷があるのかわかりませんでした。 もちろん、これは手術だけの力ではありません。 患者さんが手術後、早い時期から主体的に手を使ってくださったおかげで、 とても良い経過につながったと思っています。 今は、心臓のバイパス手術などと同じように、 「大きく切ることが正義」という時代ではありません。 必要なことを、必要最小限の傷で行う。 僕は、ばね指手術においても “きずは最小限”が良いと考えています。 ※これは、僕がお師匠先生から授かったフィロソフィーを、 愚直に日々の臨床に活かしているだけです。 あらためて、深く感謝申し上げます。 ※手術後フォローアップの外来で写真を撮らせていただきました。 患者さんより掲載許可をいただいています。

山田哲生
6月18日


母指CM関節症(親指のつけ根の痛み)─もう手術しかない?
親指のつけ根の関節が痛くなると、 「もう年齢のせいだから、仕方がない」 「このまま悪くなったら、最後は手術しかないんでしょ」 と思ってしまう方は少なくありません。 でも、必ずそうなると決まっているわけではありません。 親指のつけ根の痛みには、 手術以外にもできることがあります。 痛みをやわらげたり、 親指を使いやすくしたり、 今より生活しやすい状態を目指したりするための方法は、 思っている以上にたくさんあります。 痛みは、なぜ起こるのでしょうか 親指のつけ根の関節は、 私たちが毎日の生活の中で、とてもよく使っている場所です。 たとえば、 物をつまむ。 ペットボトルや瓶のふたを開ける。 ドアノブを回す。 スマホを持つ。 バッグを持つ。 タオルをしぼる。 このような何気ない動きでも、 親指のつけ根の関節は働いています。 しかも親指は、 「つまむ」 「握る」 「開く」 といった、いろいろな動きをしなければなりません。 そのため、親指のまわりにある筋肉や関節の動きのバランスが少し崩れるだけでも、 親指がスムーズに動きにくくなることがあります。 動きが悪く

山田哲生
6月15日


母指CM関節症と“頑張りすぎる手” — 6割の力で生きるという治療的視点
親指の付け根が痛い。 物をつまむと痛む。 瓶のふたを開けるときに痛みが走る。 雑巾をしぼる、包丁を使う、洗濯ばさみをつまむ、スマートフォンを操作する。 こうした日常の何気ない動作で、親指の付け根に痛みを感じる場合、母指CM関節症が関係していることがあります。 母指CM関節症は、親指の付け根にある関節に負担がかかり、痛みや変形、使いにくさが出てくる病気です。 一般的には「軟骨がすり減る病気」と説明されることが多いのですが、実際の痛みはそれだけで決まるものではありません。 関節の状態。 筋肉の硬さ。 手の使い方。 生活の忙しさ。 そして、その人がどれだけ無理を重ねてきたか。 そうしたものが、複雑に重なって症状として現れていることがあります。 親指の付け根が痛む人に共通していること 診療の中で母指CM関節症の患者さんを拝見していると、ひとつ感じることがあります。 それは、頑張り屋さんが多いということです。 もちろん、医学的に「頑張り屋さんだから母指CM関節症になる」と単純に言えるわけではありません。 ただ、家事、仕事、介護、趣味、細かな手作業などを、痛

山田哲生
5月19日


手首の小指側の痛みが、なかなか引かない方へ
手首の小指側が痛む。 物を持つと響く。 ドアノブを回す動きや、手をつく動作がつらい。 こうした痛みが長く続いている方のなかには、陳旧性TFCC損傷が関係していることがあります。 TFCCは、手首の小指側で関節を支える大切な組織です。 ただ、痛みが長引いている場合、単純に「傷があるから痛い」とは限りません。 傷んだ部分のまわりがこわばっていたり、動きが悪くなっていたり、 負担がかかり続けていたりして、痛みが抜けにくくなっていることがあります。 このような状態に対して、治療の選択肢となるのが、ハイドロリリースとバイオセラピーです。 ハイドロリリースは、痛みの周囲で動きが悪くなっている部分を丁寧に整え、 動かしたときのつらさや引っかかるような痛みの軽減を目指す治療です。 一方、バイオセラピーは、傷んだ部分が回復しやすい環境を整え、慢性的な痛みの改善を後押しする治療です。 大切なのは、TFCC損傷といわれた方すべてに、同じ治療が合うわけではないということです。同じように見える手首の痛みでも、実際には痛みの出方も、負担のかかり方も、人によって異なります。.

山田哲生
5月17日


諦める前に知ってほしい、術後の痛みに対する専門的アプローチ
「手術したのに、まだ痛む」「再発してどうしていいか分からない」「“もう手はありません”と言われた」 そういった声が、当院には日々届いています。一件や二件ではありません。もしかすると、あなたのその痛みも――。 🧠 神経が“潰れる”とは? 画像をご覧ください。黒く帯状に映っているのが「正中神経」です。 よく見ると、途中で細くなっている部分があります。これは周囲の異常に硬くなった組織が、神経を強く締め付けている状態です。 この原因が、「癒着」です。過去の手術、あるいは長年の使い痛みによる組織の傷跡・炎症が、神経や筋肉に貼りつき、動きと血流を妨げているのです。 💡 当院の治療アプローチ 当院では、個々の症例に応じた薬剤と技術を用いて、癒着した組織を**「切らずに剥がす」**処置を行います。 正中神経や筋膜、腱との癒着をていねいに解除 神経の表面(外膜)を圧迫している部分も、見逃さず処理 この技術には、正確な知識と高度な手技が必要です。“見えない場所”を扱うため、熟練した技術者でなければ危険を伴います。ちなみに私は2万件以上行っています。 📹 治療の

山田哲生
5月17日


へバーデン結節へのバイオセラピー 簡単な解説
もし指の第一関節が腫れ始めたら、どのように対処しますか?へバーデン結節の場合、これは単なる見た目の問題ではなく、痛みや不快感を伴う可能性があります。この記事では、へバーデン結節とその治療法の一つであるバイオセラピーについて、わかりやすく解説します。 へバーデン結節とは? へバーデン結節は、指の第一関節部分が次第にゴツゴツと変化する現象です。これは、庭に徐々に現れる小さな岩のようなもので、年齢を重ねるほどに出現しやすくなります。特に、手を過度に使用した結果として発生することがあります。 バイオセラピーとは? バイオセラピーは、簡単に言うと「自分の血液を使った治療法」です。血液から特別な成分を抽出し、痛みや不快感の原因となる部位に再注入することで、自己治癒力を促進します。これは、壊れた自転車のタイヤをパンク修理キットで修理することに似ていますが、修理されるのは自転車ではなく、あなた自身の体です。 へバーデン結節へのバイオセラピー へバーデン結節へのバイオセラピーは、「自己治癒力を促進する」方法がどのように機能するかが鍵です。想像してみてください。庭の

山田哲生
5月14日


へバーデン結節とDIP関節固定術についてー手外科医として、誠実にお伝えしたいこと
へバーデン結節の治療として「DIP関節固定術」はよく知られています。医学論文では「満足度が高い」と評価されることもありますが、その“満足度”は主に 痛みだけ を基準に判断されていることをご存知でしょうか。 手を“使うための自由度”という観点では、別の顔が見えてくることがあります。 1|論文の満足度は“痛み中心”であることが多い 研究の多くは、 痛みの軽減 変形の安定 X線上の固定性 といった項目を中心に評価します。 一方で、 細かい作業のしやすさ 他の指・手首の疲労 違和感の持続 術後数年で感じる後悔 こうした 生活の質(QOL)に関わる部分 は詳細に評価されていないことがあります。 2|DIP関節は“なくても困らない関節”ではありません DIP関節は指先の最後の関節ですが、日常の細かな動作の“最終微調整”を担っています。 スマホ操作 タイピング 物をつまむ ボタンを留める 楽器演奏 細かな家事動作 この関節が動かなくなると、「なんとなく使いにくい」という感覚が長く残ることがあります。 3|固定により、負担の場所が変わることがあります...

山田哲生
4月27日