母指CM関節症と“頑張りすぎる手” — 6割の力で生きるという治療的視点
- 山田哲生

- 2 日前
- 読了時間: 6分

親指の付け根が痛い。
物をつまむと痛む。
瓶のふたを開けるときに痛みが走る。
雑巾をしぼる、包丁を使う、洗濯ばさみをつまむ、スマートフォンを操作する。
こうした日常の何気ない動作で、親指の付け根に痛みを感じる場合、母指CM関節症が関係していることがあります。
母指CM関節症は、親指の付け根にある関節に負担がかかり、痛みや変形、使いにくさが出てくる病気です。
一般的には「軟骨がすり減る病気」と説明されることが多いのですが、実際の痛みはそれだけで決まるものではありません。
関節の状態。
筋肉の硬さ。
手の使い方。
生活の忙しさ。
そして、その人がどれだけ無理を重ねてきたか。
そうしたものが、複雑に重なって症状として現れていることがあります。
親指の付け根が痛む人に共通していること
診療の中で母指CM関節症の患者さんを拝見していると、ひとつ感じることがあります。
それは、頑張り屋さんが多いということです。
もちろん、医学的に「頑張り屋さんだから母指CM関節症になる」と単純に言えるわけではありません。
ただ、家事、仕事、介護、趣味、細かな手作業などを、痛みがあっても続けてしまう方は少なくありません。
「これくらい我慢しないと」
「自分がやらないと回らない」
「休んでいる暇なんてない」
そう思いながら、親指を使い続ける。
その毎日の積み重ねが、親指の付け根に静かに負担をかけていることがあります。
母指CM関節症とは
母指CM関節とは、親指の付け根にある関節です。
この関節は、つまむ、握る、ひねる、支えるといった動作に深く関わっています。
親指は、他の指と向かい合うことで、人間らしい細かな作業を可能にしています。
その一方で、親指の付け根には大きな力が集まりやすくなります。
たとえば、強くつまむ動作や、瓶のふたを開けるようなひねる動作では、親指の付け根に大きな負荷がかかります。母指CM関節では、つまむ力が関節部で何倍にも増幅されることがあると報告されています。(※1)
つまり母指CM関節は、非常に繊細でありながら、日常生活の中で酷使されやすい関節なのです。
頑張り屋さんの手に起こりやすいこと
痛みがあるのに手を使い続けると、人は無意識に手に力を入れます。
親指を守ろうとして、かえって親指の付け根まわりの筋肉に力が入り続ける。痛い場所をかばうために、別の部分まで硬くなる。
その結果、関節の動きがぎこちなくなり、さらに負担が増える。
このような悪循環が起こることがあります。
親指の付け根まわりの筋肉は、単に指を動かすだけではありません。
母指CM関節を安定させる役割にも関係しています。
海外の医学論文でも、母指CM関節の安定性には靱帯だけでなく、母指球筋を含む周囲の筋肉の働きが関係することが述べられています。特に母指CM関節の掌側は母指球筋と密接に関係し、筋肉による安定性が重要とされています。(※2)
また、母指CM関節症の患者さんにおいて、母指球筋の硬さや機能を超音波エラストグラフィで評価し、手の機能との関連を調べた研究もあります。(※3)
つまり、母指CM関節症は、レントゲンで見える骨や軟骨だけの問題ではありません。
親指のまわりの筋肉がどう働いているか。
どこに力が入りすぎているか。
どこがうまく動かなくなっているか。
そうした「手全体の使われ方」も、症状を考えるうえで大切です。
当院でできること
フェニックス手の未来クリニックでは、母指CM関節症を単に「軟骨がすり減った状態」としてだけでは見ていません。
超音波を用いて、関節の状態、腱や靱帯、周囲の組織、そして硬くなっている部分を丁寧に確認します。
必要がある場合には、超音波ガイド下に、問題となっている筋肉や組織をピンポイントで評価し、硬くなった部分をやわらげる治療を行うことがあります。
親指の付け根の痛みは、ただ湿布を貼るだけ、ただ安静にするだけでは整理しきれないことがあります。
どこに負担が集まっているのか。
どの組織が痛みを出しているのか。
どのような使い方が症状を長引かせているのか。
そこをできるだけ細かく見ていくことが、当院の大切にしている診療です。
すぐ受診できない方へ
とはいえ、すぐに病院に行けない方も多いと思います。
仕事がある。
家事がある。
介護がある。
家族の予定がある。
自分の手が痛くても、生活は止まってくれない。
「病院に行く暇がない」
そう感じている方も少なくないでしょう。
そのような方に、まずお伝えしたいことがあります。
それは、今より少しスローダウンしてみるということです。
完全に休む必要はありません。
今の世の中、すべてを止めることは簡単ではありません。
けれど、10割の力で頑張り続けるのではなく、6割くらいの力で生活してみる。
掃除を完璧にしない。
料理を少し簡単にする。
重い物を無理に持たない。
瓶のふたの開け閉めを道具に頼る。
痛い動作を「根性」で乗り越えようとしない。
それだけでも、手にかかる負担は変わってきます。
休むことに罪悪感を持たなくていい
頑張り屋さんほど、休むことに罪悪感を持ちがちです。
「このくらいで休んではいけない」
「もっと大変な人もいる」
「自分が弱いだけかもしれない」
そう考えてしまう方もいます。
でも、痛みは体からのサインです。
母指CM関節症の痛みは、もしかすると、体があなたに
「少し使い方を変えてください」
「少し力を抜いてください」
「今までの頑張り方を、少し見直してください」
と、静かに伝えているのかもしれません。
頑張り続けることだけが、正解ではありません。
6割の力で生きることは、怠けることではありません。むしろ、長く自分の手を使い続けるための、ひとつの知恵です。
手の痛みが教えてくれること
母指CM関節症は、親指の付け根だけの問題に見えるかもしれません。
しかし実際には、生活の仕方、力の入れ方、頑張り方と深く関係していることがあります。
完全に止まる必要はありません。
けれど、少しだけ速度を落としてみる。
10割ではなく、6割。
完璧ではなく、ちょっとだけ自分を許して途中までにする。
我慢ではなく、体の調整。
そう考えることで、手だけでなく、生活全体にも少し余裕が生まれるかもしれません。
親指の付け根の痛みが続く場合や、日常生活に支障が出ている場合には、専門的な評価を受けることも選択肢のひとつです。
手は、毎日を支えてくれる大切な道具です。
だからこそ、痛みを我慢し続けるのではなく、少し立ち止まって、その声を聞いてみてもよいのではないでしょうか。
参考文献:※1;PMID: 23395023、※2;PMID: 23395023、※3;PMID: 33380976




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